人の欲と業が渦巻く中で信念を貫き通すには…―映画「Mommy」

私は自分でいうの何だかミーハーだ。
自分の信念を持ち、地に足つけているようにみえて、全く逆のタイプである。だからこそ、この映画に強く興味を持った。

実在する人物を追うドキュメンタリーは好きな人も多いと思う。私も好きなのだが、ネガティブなストーリーを見せられると引きずられるので、極力テレビなどでもドキュメンタリーは観ないようにしている。

なのに本作品を観に行ってきたのだ。
いまから27年前におこった和歌山毒物カレー事件の真相を追うドキュメンタリー映画「Mommy(マミー)」。

2009年に死刑制度を受けても尚、無実を訴え続けている林真須美死刑囚。拘置所から息子宛に届く手紙の中では、自分を「マミー」と書き、拘置所内での日々の出来事を「日記だと思って読んでください」と、他愛のない事やいま思っていること、裁判のことなどを綴っている。
そこから滲み出る印象はいたってどこにでもいる優しい“オカン”そのもので、本当にこの人が事件を犯したのかと感じた。

その手紙を受け取る容疑者の息子もまさに同じことを感じ、過去の裁判履歴や供述調書を読み返し、不審な点を洗い直していくかの如く、監督が当時の事件関係者に話を聞いて回る。
ほとんどが「触らぬ神に祟りなし」といった様子なのに対し、ヒ素を使った保険金詐欺の件についても、あけすけなく話してしまう夫・健治の素直さが昭和を生きた人の危うさを連想させる。
また、当時のワイドショー番組でよく流れていたマスコミ連中への水まきシーンも、当時の現場の様子を見せられたら「そりゃやりたくなるわ」と思ってしまう。

現在は冤罪の可能性があるとして、再審を求め続けている。丁度先月、棄却されたというニュースがあったばかりだが、これからどうなるのか注目したい。
そして、ラストに衝撃的なことが告げられる。
それをあなたがやってはいけないよと突っ込みたくなる一方で、「触らぬ神に祟りなし」と口を閉ざす人、逃げる人と対峙する身であることを考えると、自分ならどうするだろう…と帰り道で考え続けていた。

いずれにしろ、今も昔も世の中は欲と業が渦巻いていて、そのなかで信念を貫くことの大変さ、誠実に生きるって難しいなと思った。

現在も全国各地のミニシアターで上映されているので気になった方はぜひ
https://mommy-movie.jp